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≪ずつと、追いかけてゐるの…≫                                             遙かシリーズ二次創作ブログです。
2024/04/19 (Fri)13:46
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2010/10/16 (Sat)02:54
昨夜から発掘作業を続けていたのですが、大好きな筈なのに意外と翡幸無いな~と思っていたら意外とありました(苦笑)

しかし暗い話が多いですね。
私の根が暗いからでしょうか。
きっとそうですね。

翡翠さん視点の、ただ一緒に朝食を食べる話。
ちょっと精神世界的な話かもしれません。

もしよろしければ、続きからどうぞ。




 *紅白はどちらも病的だが、それでもせめて赤を見たい*


彼は時折、とても遠いところを見ている。

確かに私に語りかけながらも、それは私を通り越して、その向こうの何かを見ている。
確かに私を見つめながらも、視線は私を突き抜けて、何か儚いものを見ている。
別に私を通して誰かを見ているわけではなくて、ただ、幸鷹が私の向こうにある透明な何かに、ふとした瞬間に目線を合わせているような気がしてならないだけ、なのだ。


「翡翠」


マーガリンをトーストに塗りながら、幸鷹が呟くように私を呼ぶ。


「何かな」


口の中に入っていたトマトとレタスとサーモンを飲み込んでから、私は答えた。

今日はよく晴れた日曜で、今はそれの朝である。
いつかの3月、春めき始めたころの彼の思いつきで、窓際に寄せられたテヱブル。

これはいつ買ったのだったかな。

思い返せば、彼はよくこの位置から私を呼んだ。
二人で暮らしているのだから当たり前だが、穏やかに過ぎて行く食事時に、彼は思いついたように私の名を口にしたことが多かったように思う。

薄いレースのカーテン越しの日の光は、何だか赤みを引いて白みを増すように思える。
それが何だか消毒されているようで、精錬されたような美しさには違いないが、今いるここが病棟であるかのような、ひどく…ひどく倒錯的な、そんな照明だと私は考えたことがある。

その瞳は作業する手元を見つめているであるから、ごく普通に彼は微かに俯いている。
必然的に睫毛と彼の髪が、白妙の証明を浴びて眩しい程の影をつくる。


病的に美しい、と思う。


「翡翠」


まったく同じ調子で、彼が空気を震わせる。
彼は聞いていなかったわけではなくて、もう一度私を呼びたかっただけであるのはわかっている。
だから私も、今一度、同じ振動を以って彼の鼓膜を震わせよう。


「何かな」


一拍置いて、かちゃり、と微かな音をさせて、スプレッダーを置く音がした。
その音がすることこそが、より一層の静寂だ。
窓は開けていないから、風の音は無い。
それからさらに一拍置いて、まだ視線は手元に落としたままで、彼は用件を口にした。


「貴方と暮らすと決めた日に、ふと、思ったんですよ

 私は貴方に

 私の好きなジャムを覚えて欲しかったのに

 貴方は最初から知っていた

 何だか寂しかったんですよ」


私は何も言わない。
紅茶が、いい香りだ。
卓上のガーベラのそれは、悲しいかな、よくわからない。


「翡翠」


私はそれに答えずに、自分の分の食器を重ねて、席を立った。
シンクに取り敢えず置いて、冷蔵庫を開けた。
戻ってテーブルの上を見れば、幸鷹のトーストはまだ半分残っていた。


「翡翠」

「何かな」


コトリ、と卓上に瓶を置く。
それを見た彼は、何も言わずにそれを見つめた。


「幸、早くそれで食べて

 マーガリンよりも

 もっと甘いくちづけがしたいな、私は」


そこまで言うと、やっと私を見つめてくれた。
少しばかり目を丸くした瞳が、少し幼く見えて可愛らしいと思う。
本当はもう少しばかり大きいのにね。
少しばかり度の強いレンズのせいだと、私はわかっている。


「…ブルーベリーが好きなのは貴方でしょう」

「やっと覚えてくれたんだね」

「そんなのとうに知っています」

「そう、嬉しいな」


そのまま、こつり、と額を突き合わせると、何故だか幸福な気分になる。

しかしそれは穏やかなものではなく、僅かに胸の鼓動を速める一種の薬のようなもの。

早く唇を奪わせろと、精神が、身体に駆け出すよう命じるのだ。


「…あんずを持ってきてくれたら、キスしてあげてもいいですよ」


そう言った彼の頬に、すこしばかり朱が戻ったような気がして。
静かな安堵と共に、愛おしさがこみ上げる。

待ち切れずにデザートのいちごを彼の口に放り込み、私のそれで塞いだ。


この上なく、甘く、酸い。


幸鷹の手が、私の背に回されたのに安心して愛しい人の唇を吸う。




これで寂しくないだろう、君も、私も。

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